亜鉛は、鉄の次に多い微量ミネラルです。体内に2g程度あります。亜鉛は十二指腸から吸収され、前立腺や骨や筋肉、目や皮膚などに蓄えられます。腸管上皮から吸収される際、亜鉛輸送担体により適切な量が吸収されるように調整されています。亜鉛の吸収率は30%程度です。血中では、アルブミンやトランスフェリンと結合して輸送されます。
動物性タンパク質と一緒に摂ると吸収は上がり、フィチン酸やリン、食物繊維は亜鉛の吸収を阻害します。また加工食品に含まれる食品添加物も亜鉛の吸収を阻害するものがあり、亜鉛は、牡蠣、牛豚肉、ナッツ類などに多く含まれます。
亜鉛は、300種類以上の酵素に関わり、DNA・RNA合成、タンパク質合成、ホルモン分泌、エネルギー産生、視力の調整、成長促進、味覚嗅覚などの感覚機能、爪の代謝、神経伝達物質の調整、免疫力の強化、インスリン分泌などに重要な働きをします。
ガンや糖尿病など様々な疾患の原因は活性酸素といわれます。活性酸素には、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素があります。活性酸素の中でも一番毒性が高いといわれるのはヒドロキシラジカルです。体内には活性酸素を分解する働きがあります。この働きを持った酵素をスカベンジャーといい、これは掃除屋という意味です。
スーパーオキシドアニオンラジカルを消去する働きがあるスカベンジャーがSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)という酵素です。SODにより、スーパーオキシドアニオンは酸素と過酸化水素に分解されます。SODには銅やマンガンに加えて、亜鉛が必要とされます。SODは強力な抗酸化作用を持ち、遺伝子の保護やウイルス感染から保護します。亜鉛が不足するとこのSODが作れなくなり、免疫力が低下します。
亜鉛は抗酸化酵素であるSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)の補因子として働く。
亜鉛が不足するとSODが作られなくなり、免疫力の低下につながる。
亜鉛は、ガンの血管新生を抑制する働きがあり、炎症を引き起こす炎症性サイトカインを作りにくくすることにより、ガン細胞の成長を遅らせる作用があります。
ほかに活性酸素を消去する酵素には、銅と鉄とマンガンを含むカタラーゼやセレンを含むグルタチオンペルオキシターゼがあります。
亜鉛はDNAを複製するときに必要とされるポリメラーゼという酵素に必要です。また、ポリメラーゼの働きを助け、細胞分裂の際に働くタンパク質は立体構造をしており、そこで亜鉛はジンクフィンガーとして重要な役割をします。亜鉛が不足すると正常にDNAが複製されず、突然変異などを起こします。
ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると、それらを攻撃して体を守る免疫という仕組みがあります。免疫細胞の一つであるT細胞は胸腺で作られます。亜鉛が不足すると胸腺自体が萎縮して、T細胞の様々な抗体への分化が行われなくなります。その結果、免疫が低下し、様々な病気に対抗できなくなります。
亜鉛は、別名セックスミネラルと呼ばれるように、性ホルモンの分泌に関わります。成人の男性では、亜鉛は性線である精巣や前立腺に多く含まれます。精巣では男性ホルモンであるテストステロンの合成をおこないます。亜鉛が不足するとホルモンの分泌が弱くなり、性欲低下や勃起不全などを起こします。精子の数や精子の活動量とも関係し、不妊の原因にも繋がります。
また、女性の場合は、卵巣に多くの亜鉛が含まれます。黄体形成ホルモンや卵細胞刺激ホルモンをはたらきには亜鉛が必要です。脳下垂体から黄体形成ホルモンが分泌され、性線を刺激しホルモンの分泌や排卵を促します。亜鉛が不足するとホルモンの分泌が滞り、月経周期が乱れたり、生理不順を引き起こします。
視力や目の健康に関わるのは、ビタミンAです。ビタミンAが不足すると暗所視の機能が低下し、夜盲症になります。亜鉛は、網膜細胞の代謝とビタミンAの代謝を高めることがわかっています。白内障や黄斑変性などの治療においても亜鉛が用いられています。白内障では水晶体の白濁がおこります。白濁は水晶体のタンパク質が変性することによっておこりますが、亜鉛の摂取はそれを予防します。
亜鉛は皮膚の正常な代謝を促します。皮膚の炎症を抑えたり、傷の治癒などに関与します。また、ロドプシンの生成に関与し、視力を維持調整します。レチノールからレチナールへの代謝を促し、暗順応に寄与します。
亜鉛が不足すると胎児の成長に影響が出たり、味覚異常などが起こります。その他に、皮膚炎、口内炎、夜盲症、食欲不振、脱毛、傷の治りが遅い、下痢や胃腸障害、免疫力低下などがあります。
妊娠初期の女性に味覚異常がおこることがあります。これは、胎児の成長に大量の亜鉛が必要となり、母体で亜鉛欠乏になるからです。亜鉛は細胞の正常な分化に関わるので、不足すると成長不全となり低身長になったりします。
DNAが正常に複製されず、突然変異を起こす。
胸腺が萎縮し、免疫細胞が作られず、免疫力が低下する。
性ホルモンの分泌が滞り、性欲低下や勃起不全、月経周期の乱れや生理不順となる。
皮膚の炎症や口内炎、夜盲症などを引き起こす。
下痢や胃腸症状が起こる。
傷の治りが遅くなる。
胎児の成長に影響が出て、成長不全や低身長を引き起こす。
妊娠初期の妊婦に味覚異常が起こる。
生体内でもっとも多く亜鉛を含有するのは、膵臓β細胞です。血液中の糖分が増えると、膵臓β細胞からインスリンが分泌され、血糖値を下げるように働きます。亜鉛は、インスリンの結晶を形成するため、亜鉛不足になるとインスリンの分泌が減少してしまいます。結果的に、糖尿病の発症リスクを高めます。
また、膵臓のβ細胞は、活発にATP合成を行っている臓器であり、そのため酸化ストレスも受けやすい場所です。亜鉛は酸化ストレスの原因となる活性酸素を除去することで、膵臓β細胞が障害を受けるのを守るとも考えられています。
飲酒やカフェインは、亜鉛を尿中へと排出します。糖尿病でも、カルシウム、マグネシウムとともにミネラルが尿糖とともに排出されます。
参考:アトピーが消えた、亜鉛で直った―副作用ゼロ・目を見張る効果 有沢 祥子 (著) / 信じられないほどの効果がでる! 必須ミネラル「亜鉛」超健康法―高血圧・糖尿病・アトピー・花粉症…に驚くべき改善力! 有沢 祥子 (著) / 新・栄養医学ガイドブック (サプリがもたらす健康の回復)柏崎 良子 (著) / 原因がはっきりしない30の症状はミネラルで治る!登坂 正子 (著) / サプリメントで病気になる!サプリメントで病気を治す! ビタミン・ミネラル編―あなたのサプリメント選びは間違っている!八藤 真 (著) / アスリートのための最新栄養学(下)山本義徳 (著) /
DNA合成 / タンパク質合成 / ホルモン分泌 / エネルギー産生 / 視力の調整 / 成長促進 / 味覚嗅覚の維持 / 爪の代謝 / 神経伝達物質の調整 / 免疫強化 / インスリン分泌