ビタミンB1は、1912年にカシミール・フンクによって発見され、一番最初にビタミンと命名された物質です。チアミンとも呼ばれます。ビタミンは13種類ありますが、脂溶性のビタミンとしてビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKの4種類あります。
水溶性ビタミンには、ビタミンB群とビタミンCの9種類があります。ビタミンB群とは、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチンを指します。
また、ビタミン様物質であるビタミンB4(アデニン)、ビタミンB13(オロチン酸)、ビタミンB15(バンガミン酸)、B17(アミグダリン)、イノシトール、コリン、パラアミノ安息香酸、カルニチンの8種類を含めてビタミンB群と総称する場合もあります。
ビタミンB1には、天然には遊離型と3種類のリン酸エステル型(チアミン1リン酸 (TMP)、チアミン2リン酸(TPP)、チアミン3リン酸 (TTP))が存在します。このうち体内でもっとも多いのは、チアミン二リン酸(TPP、チアミンピロリン酸)です。
チアミン二リン酸は酵素タンパク質と結合して存在しています。胃酸によって消化されると、チアミン二リン酸は酵素タンパク質から遊離し、フォスファターゼという酵素の働きにより、リン酸が取れて遊離チアミンとなります。主に十二指腸または空腸により吸収され、赤血球によって血液中を循環します。
ビタミンB1は、糖代謝に関わります。糖質からエネルギーを作り出すときに必要なビタミンです。摂取した糖質はブドウ糖まで分解されます。ブドウ糖は解糖系にてピルビン酸になり、さらにアセチルCoAに代謝されます。
ビタミンB1は、ピルビン酸からアセチルCoAに変換する際に必要な酵素であるピルビン酸脱水素酵素(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)の補酵素として働きます。アセチルCoAになってミトコンドリアに取り込まれ、ATPエネルギーとして産生されます。
ビタミンB1が不足すると、ピルビン酸からアセチルCoAへの代謝がうまく行かず、その結果ビルビン酸が乳酸となってしまいます。乳酸は肩こりや痛みを引き起こす原因となります。ビタミンB1不足に加え、アセチルCoAの濃度が上昇したり、ピルビン酸の濃度が低下しても、ピルビン酸脱水素酵素の働きは弱くなります。エネルギーが上手く産生できなくなると、倦怠感、朝起きられない、疲れやすいなどの症状が出てきます。
ビタミンB1は神経細胞の働きにも関与します。ビタミンB1はミエリン鞘の形成や神経線維のDNA合成に関わり、神経伝達の速度に関係します。神経細胞(ニューロン)の軸索をミエリン鞘(髄鞘)という脂質の膜が覆っています。
電気信号は軸索という神経繊維を伝わりますが、ミエリン鞘は絶縁体の役割を果たして電気信号が脱線しないようになっています。また、エミリン鞘はランヴィエの絞輪というエミリン鞘とエミリン鞘の隙間を高速に跳躍的に電気伝導することで、体の他の部分に素早く伝わるようになっています。
ビタミンB1が不足することでエミリン鞘が傷ついたり壊れたりする(脱髄)と、神経伝達が上手くいかなくなります。また、ビタミンB1が不足し、神経繊維が上手く作れず軸索が脱線する(軸索変性)と、同様に神経伝達が上手くいかなくなります。
その結果、眼球運動障害、歩行運動失調や意識障害などの中枢神経障害を起こしたり、手足の痺れ、知覚障害、感覚麻痺、脚気や浮腫みなどの抹消神経障害が起こります。
江戸時代に流行した江戸わずらいは、脚気という病態です。庶民が白米中心の食事になったことで、ビタミンB1欠乏になった結果でした。白米は、玄米からビタミンB1が多く含まれる胚芽部分を取り除いたものです。食欲不振、イライラ、倦怠感などから始まり、上記のように、神経障害により足の痺れ、心不全による足の浮腫みなどが症状として起こります。
ビタミンB1が足りなくなると、エネルギー不足の症状、脳神経に関わる症状が起こります。ビタミンB1が不足する主な原因は、糖質の過剰摂取や飲酒、ストレスで起こります。糖質を過剰に摂取することで解糖系で必要なビタミンB1の消費が増大します。
また、アルコールを摂取すると葉酸が欠乏します。その結果、ビタミンB1の吸収力が低下し、ビタミンB1不足となります。アルコール中毒になるとビタミンB1欠乏なり、神経障害などをきたします。
ビタミンB1は、豚肉、うなぎ、ナッツ類などに多く含まれます。ビタミンB1を摂取する場合、ネギ、にんにくなどに含まれるアリシン、海藻に含まれるマグネシウムと一緒に摂取すると吸収力が上がります。
ビタミンB1の吸収される量は、ナトリウム濃度の影響を受けます。汗や下痢などで塩分を失うときは、塩分補給することで吸収されやすくなります。
ビタミンB群は、さまざまな酵素の補酵素として働きます。単独ではなく、お互いが作用しあって複合的に働きます。そのため、ビタミンB群と呼ばれます。ビタミンB群は、食事から摂取した後、そのままでは活性化されず、お互いに作用して働ける形になります。葉酸はナイアシンやビタミンB12を必要とし、ビタミンB6はビタミンB2を必要とします。
腸内細菌はビタミンB群(ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン)を生成することができます。
参考:新・栄養医学ガイドブック (サプリがもたらす健康の回復)柏崎 良子 (著) / サプリメントで病気になる!サプリメントで病気を治す! ビタミン・ミネラル編―あなたのサプリメント選びは間違っている!八藤 真 (著) / アスリートのための最新栄養学(上)山本義徳 (著)
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