NOでアンチエイジング

本日の栄養図書は、『NOでアンチエイジング』ルイス・J. イグナロ (著)です。

NO(一酸化窒素)は窒素と酸素からなる化合物です。常温で無色無臭の気体です。物質を燃焼したときに発生し、空気中では酸化されて二酸化窒素となります。自動車の排気ガスやタバコの煙に含まれます。マイナスな側面のイメージが強いですが、実はNOは生体内で有益な生理作用を持ちます。

一酸化窒素は、血管内皮細胞で発生し、血管を弛緩する働きがあります。血圧を下げるだけでなく、動脈硬化を防ぎ心血管疾患を予防する働きがあり、健康に大きく関与する物質だとされています。

NOの生理機能を発見したイグナロ博士は、1998年にファーチゴット博士やムラド博士とともにNOに関連する一連の研究でノーベル賞を受賞しています。それまで、ネガティブな印象のNOを一変させました。以前、一躍有名になったバイアグラという勃起不全を解消する薬は、陰茎組織の血管がNOにより弛緩することによって陰茎の勃起を起こさせます。ファイザー社から販売されたバイアグラが巨額の利益をあげ、イグナロ博士はバイアグラの父と呼ばれるようになります。

バイアグラはルイス・イグナロ博士の研究を元に開発された。
special thanks to Michal JarmolukによるPixabayからの画像

もともと窒素化合物であるニトログリセリンは、狭心症の治療薬として使われていました。爆薬であるニトログリセリンが、一方では血管組織内でNOに変換され、血管を弛緩することで、心臓に多くの血液と酸素が送られ、胸痛がなくなることを経験的には分かっていましたが、彼らの研究により科学的に解明されました。

NOはアンチエイジングに関わる様々な作用があります。血管の平滑筋を弛緩させて、血液の流れをよくする働きがあります。血管は、外膜(がいまく)、中膜(ちゅうまく)、内膜(ないまく)からできています。

血管の構造(外膜、中膜、内膜)

動脈の中膜には平滑筋という筋肉があり、これが弛緩したり収縮したりすることで血液を全身に流れるように送り込みます。血管の一番内側にあるのが内膜です。内膜はわずか細胞一つ分の薄い膜ですが、この内膜にある上皮細胞でNOは産生されます。NOは平滑筋に働き、血管を拡張させます。体内を血液が自由に流れることで血管内の有害な狭窄から保護し、高血圧を予防します。

NOはアテローム性動脈硬化を予防します。若いときは綺麗な血管も加齢により内壁が狭くなり、しなやかさを失います。また、血管の内壁には、プラークと呼ばれる脂肪の堆積物が蓄積します。プラークは、LDLコレステロールという脂肪だけでなく、細胞の老廃物やカルシウム、フィブリンという血液凝固因子などが集まったものです。

プラークが溜まるとアテローム性動脈硬化になり、血液が正常に流れなくなります。心臓につながる冠状動脈にプラークができると、心臓は酸素を受け取ることができずに、狭心症が起こります。

プラークがたまると血液の流れを阻害してしまう。

また、プラークが大きくなると動脈壁から剥がれ落ち血管が傷つきます。そうすると動脈壁には血餅ができます。血餅というのは血の塊です。血管内が損傷すると、修復するために血小板が集まります。この血小板が血餅を作ります。血液が凝固する仕組みは切り傷や刺し傷などができたときに傷口を塞ぎ、止血するためにとても大切な作用です。

血管が傷つくとその場所に血小板が集まり、血栓という血塊ができます。それが血流を塞いだり、その場所から剥がれてまた別の血管を詰まらせ、血液の流れを阻害することになります。冠動脈で血栓が生じれば冠動脈血栓になり、脳血管で起これば脳血栓になります。こういった心臓発作や脳卒中は動脈硬化が原因で起こります。NOは血栓ができるのを予防し、動脈硬化を防ぐ働きがあります。

NOは血管の内皮細胞だけでなく、神経細胞でも産生します。肺の神経細胞がNOを産生すると気道が広がり、気道拡張剤の役割をします。脳の神経細胞では、学習や記憶に関わる部位で作られます。陰茎組織の神経細胞でNOが産生すると陰茎の平滑筋に入り込んで、平滑筋を弛緩させてより多くの血液を流し込み勃起不全を解消します。まさにNOは健康維持のために必要な物質と言えます。

NOは心血管疾患を予防し健康維持に貢献しますが、どのように生体内で産生されるか。結論から言えば、NOは血管の内皮細胞で、アミノ酸の一種であるL-アルギニンから転換されて産生されます。なので食事からL-アルギニンを摂れば良いのですが、食事だけからではNOを産生するだけの量が摂取できません。ですので、サプリメントを利用するのが、NOを産生するための有効な手段となります。

また、同じくアミノ酸であるL-シトルリンは血管の内皮細胞でL-アルギニンに転換されます。L-シトルリンを同時に摂取することにより、より多くのNOを産生することができます。本書で推奨しているL-アルギニンの摂取量は、1日3-6gです。1日3g以下だとごく少量のNOしか産生されないので注意が必要です。飲むタイミングは、就寝前がベストです。体内の血管内皮細胞は昼間動いているときよりも、就寝中に産生レベルが下がるからです。L-シトルリンの推奨摂取量は、就寝前に1日200-1000mgです。

L-アルギニンとL-シトルリンのサプリメント
L-アルギニンは1日3-6g、L-シトルリンは1日200-1000mgが摂取目安。
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血管の内壁は、プラーク以外にも活性酸素の影響を受けて損傷します。NOは活性酸素による酸化ストレスを抑制する抗酸化物質でもありますが、NOレベルを下げないためにも、L-アルギニンとL-シトルリンだけでなく、抗酸化物質であるビタミンC、ビタミンE、葉酸をやはりサプリメントで同時に摂取するのがより効果を高めます。

もちろん、これらのサプリメントだけを摂っていたら、必ず動脈硬化や心血管障害が防げるというわけではありません。NOは運動でも産生します。ウォーキングなど体に負担のない軽い運動も大切です。食事内容をはじめ、生活習慣全体を見直す中で、一つの選択肢として、こういった栄養素がNOの産生を促し、血管の内皮細胞の状態を健康に保ち、それはすなわち血管の不具合で起こる病気を予防してくれるという認識を持っておくことは、毎日健やかに過ごすために役立つはずです。

参考図書:『NOでアンチエイジング』ルイス・J. イグナロ (著)