ビタミンK

ビタミンKはビタミンA、D、Eと同じく脂溶性ビタミンです。ADEほど注目はされていませんが、かなり大切な栄養素の一つであることがわかってきました。

ビタミンKはコレステロールの研究をしていたデンマークの生化学者カール・ピーター・ヘンリク・ダムにより発見されます。その約10年後、アメリカのエドワード・アダルバート・ドイジーにより単離が成功します。2人は、ビタミンKの発見と構造を解明したことで、1943年度のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

ビタミンKはK1からK7までの7種類あります。そのち天然に存在するのはK1とK2の2種類です。人体にとって有用な作用を持つのもこの2つです。残りのK3からK7は工業的に作られます。

ビタミンK1はフィロキノンとも呼ばれます。フィロキノンの代表的な作用は、血液凝固作用です。歯茎からの出血や外傷性出血などに対して、血液を固めて出血を止める働きをします。ビタミンKのKは、ドイツ語で凝固を意味するKoagulationsに由来します。

フィロキノンは光合成を行う植物には不可欠な栄養素であり、葉緑素に含まれます。この中で細胞膜で電子を運ぶ役割を担っています。フィロキノン(phylloquinone)のphyのphyはギリシャ語で葉を意味するように、ケールやコラード、ほうれん草やかぶの葉などに多く含まれます。

ビタミンK1欠乏は特別な疾患がない限り、通常の食事をしていれば不足することはありません。血液凝固作用は、食事の摂取内容で左右されてはいけないくらい大切な機能であり、ビタミンK1は不足しないように体内で変換され作られるからです。万一欠乏すればすぐ症状にでるためにわかります。

ポイント

ビタミンK1(フィロキノン)
・植物から作られる。
・主な働きは、血液を凝固する。
・通常の食事で不足はあまり起こらない。

一方でビタミンK2はメナキノンと言われ、ビタミンK1とは全く別の働きをします。ビタミンK2はカルシウム代謝に関わります。体内でカルシウムが貯蔵されるのは、99%が骨や歯です。残りの1%が血液や細胞などの軟組織です。ビタミンK2は、カルシウムを骨や歯などに適切に運び込み、そこに定着させるための因子として働いています。

骨は作っては壊しを繰り返し、常に新旧入れ替わっています。骨芽細胞は、オステオカルシン(BGP)というタンパク質を分泌し、骨形成に関与します。骨は体を支える機能だけではなく、内分泌器官でもあるわけです。オステオカルシンは、男性ホルモンであるテストステロンの分泌を促進したり、インスリン分泌を促すため、生殖機能や糖尿病との関係も深いホルモン物質です。骨の基質となるコラーゲンの次に多いタンパク質です。

ビタミンK2は、酵素の補酵素として、オステオカルシンに作用し、カルボキシル基を付与し、活性化させます。こうしてγ-カルボキシル化されたオステオカルシンは、カルシウムと結合することによって、カルシウムを骨や歯などに運び、定着させます。つまり、しっかりと骨形成を行うには、ビタミンK2が充足していることが必要になります。ここでビタミンK2が不足していれば、カルシウム代謝が滞り、骨密度が低下し、骨粗鬆症や骨折などを引き起こすリスクが発生します。

ポイント

ビタミンK2(メナキノン)
・骨から分泌されるオステオカルシンに作用する。
・カルシウムを骨に定着させる。
・不足するとカルシウム代謝が滞り、骨密度が低下する。

また、オステオカルシンが骨から分泌するためには、ビタミンA、ビタミンDが必要です。骨病変といえば、一般的にはカルシウム不足が指摘されがちですが、栄養療法的には脂溶性ビタミンであるA、D、そしてこのビタミンKは重要な役割を果たすのです。また、ビタミンDを高容量摂取する場合は、相対的にビタミンK2が欠乏し、動脈の石灰化を促進します。そのため、これらのビタミンは単一で摂るよりも、バランスを考慮して同時に摂取することが好ましいです。目安としてビタミンDを1日1万IU摂取する場合は、同時にビタミンK2を100mg摂取するとよいとされています。

ビタミンK2には、いくつか種類があります。代表的なのは、MK-4(メナキノン4)とMK-7(メナキノン7)です。MK-4は動物の体内で生成され、食品では牧草飼料由来の肉類や黄卵に多く含まれます。一方、MK-7は、細菌発酵により作られます。MK-7を多く含む食品は、チーズや納豆です。納豆50gからMK-7が550μg程度摂取できます。微生物による発酵でビタミンK2の含有量はとても多くなります。K2のサプリメントの代わりに納豆を毎日食べることも有用です。

ポイント

・ビタミンK2には、MK-4(メナキノン4)とMK-7(メナキノン7)の2種類ある。
・MK-4は動物の体内で生成される。
・MK-7は細菌発酵により作られる。

ビタミンK2はオステオカルシンに作用すると上述しましたが、もう一つ、マトリクスGlaタンパク質(MGP)もビタミンK2に依存するタンパク質です。ビタミンK2は、MGPに作用して構造を作り替えます。活性化されたビタミンK2は、動脈にある不要なカルシウムを取り除く働きがあります。動脈や皮膚などの軟組織に、カルシウムが沈着し、石灰化することにより、プラークが形成されます。プラークは、アテローム性動脈硬化の原因となります。MGPは心臓、腎臓など体のあらゆる組織に存在しますが、ビタミンK2により活性化されることで、血管が石灰化することを抑制してくれるわけです。ビタミンK2が不足すると動脈にプラークが沈着し、心不全や狭心症などの心疾患を引き起こします。

また、脳内にはビタミンK2はビタミンK1の6倍ほど存在しています。主に脳はビタミンK2の貯蔵庫になっています。ビタミンK2は脳の神経細胞を活性酸素による攻撃から保護する働きを持っています。ビタミンK2の欠乏は、骨病変や心疾患だけでなく、アルツハイマー型認知症や脳神経変性による疾患の発症につながると言われています。つまり、脳が萎縮し、認知機能の低下、骨折しやすくなり、心臓発作などの病気が併発して常に疾患のリスクを抱えてしまうことになります。

ビタミンK2は糖尿病とも関係します。ビタミンAおよびDは骨格に作用すると骨芽細胞はオステオカルシンというタンパク質を分泌します。オステオカルシンは骨中に約0.4%ほど存在します。骨格からわずかな量が血液中に流れ出し巡回しています。血中に流れ出たオステオカルシンは直接またはインクレチンを介して、インスリンの分泌を促進することがわかっています。つまり骨格から分泌されるホルモンが糖代謝の調整に関わっているということです。

また、インスリン抵抗性を改善し、耐糖能を正常化する働きがあり、糖尿病の発症や予防に関わっています。このオステオカルシンを活性化するのがビタミンK2です。上記のような働きは通常のオステオカルシンでもおこりますが、活性化されたオステオカルシンほど強くなります。つまり、ビタミンK2の存在が鍵になるわけです。

その他、ビタミンK2は、糖尿病や腎臓疾患、生殖能力、歯科の正常な発達、がんなどと関連があります。

ビタミンK2の欠乏は、ビタミンK1の欠乏での症状の分かりやすさと違い、あまり表には出てきません。ビタミンK2はカルシウム代謝に関わるため、欠乏すると骨病変やプラーク沈着により心疾患などの原因となります。他のビタミンに比べ、あまり重要視されることはありませんが、重要な働きがあります。

ポイント

ビタミンK2のはたらき
・カルシウムが沈着して石灰化するのを防ぐ。
・活性酸素の害から脳の神経細胞を保護する。
・オステオカルシンを活性化し、インスリン抵抗性を改善する。
ビタミンK2の欠乏
・動脈にプラークを形成し、心疾患を引き起こす。
・アルツハイマー型認知症や脳の認知機能を低下させる。
・骨折や骨粗鬆症のリスクが高くなる。

参考図書

Vitamin K2 and the Calcium Paradox / Kate Rheaume-Bleue / IMK books

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