弥生人も鉄欠乏性貧血?

青谷上寺地遺跡展示館

青谷上寺地遺跡展示館に行ってきました。青谷上寺地遺跡の場所そのものにはシートが覆っていて見物できないということで伺えませんでした。青谷上寺地遺跡は、鳥取県鳥取市青谷にあります。弥生時代の人々の暮らした痕跡がわかる多くの遺構や遺物が出土しています。

この地域には様々な出土品があります。その中には弥生人の109体分の遺骨も見つかっています。ここは殺傷痕のある人骨が出土した場所として有名なところです。この場所で戦いが起り、多くの殺戮があったのではないかとも言われています。そして、その中の3体に脳も発見されました。世界的にも6例しかなくとても貴重です。この遺跡の場所は低湿地で空気から遮断されていたため、腐敗菌が繁殖せずに保存状態もよくまさに奇跡だそうです。

実際に展示館に入ると石包丁や土笛など多くの出土品が展示されています。弥生人の生活の営みがこの場所にあったことを伺わせるものばかりです。そして、部屋の中央付近に、人骨の展示がありました。

そして、写真の右下にあるのがその女性の脳の断片です。脳の左頭頂葉の部分です。ここの部位だけ見ても一体何であるかよく分かりません。逆に、頭蓋骨自体はカタチを認識できるものなのでよく分かります。意外と大きく、現代人とそう変わらないのでないかという印象です。この脳の断片をDNA解析していくわけです。

脳の断片

DNAとは遺伝子の遺伝情報を伝える物質です。ミトコンドリアDNAを解析することで私たちの母方のルーツを探る研究が行われているそうです。

そして、面白かったのは下記の頭蓋骨です。解説には、眼窩櫛(がんかせつ)という眼球上部に病変があるという説明書き。眼球が入るくぼみ(眼窩)の天井に小さな穴が多数見られます。これは幼児期に鉄欠乏性貧血を起こした際の病変らしいのです。当時の栄養状況がよくなかったことが伺えるとありました。

弥生人の人骨。歯が意外と大きい。
拡大写真:眼球が入るくぼみの部分の天井に大小の穴がある

弥生時代は稲作などの農耕社会が定着した時期と言われます。米や小麦、アワなど穀物を中心とする食生活です。それより前の時代の縄文人は、狩猟採集によりシカやイノシシなどの動物を獲ったり、木ノ実やドングリなど集めていました。また、漁労といって貝類や魚類なども獲っていたと言われます。貝殻などを捨てていた貝塚などは聞いたことがあるかと思います。実際には縄文時代には農耕や水田などがあり、すでに穀物を摂っていたのではないかという説もあります。

炭化米

病変のあった写真の女性は弥生人で、土地に定住し穀物を食べていた時期の人骨です。農耕栽培により安定的に食物を用意できていたとされます。展示館には、農耕や食生活を下支えする様々な道具があり、弥生期当時の技術はすでに相当すごいものであったことが想像できます。知恵と工夫で暮らしが豊かになっていくその痕跡が垣間みれます。

石庖丁や石斧

一方、栄養面からみれば、穀物中心になると現代にも通じるそれらによる弊害や病気も出てきたと言われます。この女性の人骨に残る病変は、鉄欠乏性貧血が原因とあります。鉄欠乏性貧血とは、体内中の鉄が不足して、赤血球に含まれるヘモグロビンが作られなくなるためにおこる病態です。ヘモグロビンは全身の細胞に酸素を送り届ける働きをするタンパク質です。

タンパク質や鉄が不足すると鉄欠乏性貧血を引き起こします。また、大きな出血などがおこると体から多くの鉄が失われてしまいます。鉄欠乏性貧血になると、動悸や息切れ、だるさや疲れやすいといった症状やうつなども引き起こします。

人骨女性が起こしていたのは、おそらく栄養欠乏です。これはこの女性が幼少期に大きな出血を伴う病気になったからなのでしょうか。もしくは、まだまだ食環境が厳しい状況で満足な食事を与えられなかったためだったのでしょうか。それとも、食物を食べていながらこういった栄養欠乏の状態になったのでしょうか。

現代女性の8割はこの鉄欠乏と言われます。それによる貧血や栄養不足は、日々の体調や病気の発症に大きく関わることは事実です。女性は月経が始まると鉄の需要が急激に増えます。さらに妊娠や出産により多くの鉄を失います。その分、補わないといけません。鉄は人間が生きていくために必要なミネラルです。特に女性において鉄欠乏は顕著で、それにより引き起こされる産後うつなどは社会問題の一つです。解決の鍵は栄養にあります。

現代女性の多くが鉄欠乏状態。それによるうつや精神疾患も多い。
special thanks to Foundry CoによるPixabayからの画像

人骨女性の栄養欠乏と現代女性の栄養不足は、何か地続きでつながっているような気もします。こうやって古代人の生活や食に思いを馳せるだけでどこかワクワクしてきます。

弥生時代は集落同士での争いが増えたと言われます。この青谷上寺地遺跡の場所でも争いや殺戮があったと考えられています。下記の写真は女性の頭蓋骨です。頭頂部に殺傷痕があります。争いが絶えないのは現代でも常ですが、知恵を得てきた反面、それと引き換えに何か大切なものを失い始め出した最初の時代かもしれません。

殺傷痕がある頭蓋骨

いつの時代も栄養不足は嫌なものです。展示館は観やすくとても面白いので興味のある方はぜひ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUT US
りゅう栄養大好き人間
栄養は最高です。最強です。栄養たっぷりの人生は楽しいことばかりです。これはマジです。特にオススメは分子栄養学。三石理論。趣味は健康自主管理。食事 / 健康 / 運動 / 映画 / 旅行 / 読書 などを通じて有益な情報を共有できたらと思います。